作家「増田俊也」インタビュー

JeditΩは一般の人だけではなく、多くの作家やライターに愛されている。その秘密はどこにあるのか。「このミステリーがすごい!」大賞出身で、『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』(新潮社)や『『シャトゥーン ヒグマの森』(宝島社)などで知られる小説家、増田俊也さんに聞いた。



——増田さんからはときどきサポートメールに連絡をいただくので存じ上げていましたが、ずっとJeditをお使いいただいているそうで。


増田 はい。僕ら作家は大量のテキストを毎日書いているので、正直いってWordは重すぎて使えない。それでも文系出身の作家はWordしか使ったことがない人ばかりだから「こんなもんだろう」という感覚で使っているみたいですが、僕は執筆ソフトの話になるたびにJeditを奨めています。


——ありがとうございます。どういった点で作家に使いやすいのでしょうか。


増田 まず先ほど言ったように動作が軽いことです。400字詰原稿用紙換算で1000枚とか2000枚とか、それくらい長大な作品を書いていると、とてもじゃないですが普通のワープロソフトでは遅延時間がありすぎて作業に支障をきたします。他の作家さんは、よくあんなに遅いソフトを使ってるなと思います。


——動作の軽さが重要ポイントなんですね。


増田 でももっと重要なことがあります。




2011年に出てベストセラーとなった『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』の原稿もJeditで書かれた。

縦書き横スクロールで画面すべてが執筆環境に。

——それは何ですか?


増田 縦書きの横スクロールです。Wordもそうですが、たいていのワープロソフトはWordを真似て作ってるから、みんな縦スクロールなんです。そうすると、たとえば次のページの3行目を見たいときも1ページまるまるスクロールしなければなりません。


——たしかにそうですね。


増田 Wordは横書き文字のために開発されたものだから下へ3行スクロールするだけですが、縦書きの日本語を扱うと3行先を見るためだけに1ページ分スクロールです。そもそも日本語に合わないソフトを無理やり日本語に流用している。本来ならマイクロソフト社が「縦書き用のWord」を作らなきゃいけないんでしょうけど、世界的に見て縦書き言語は少ないからそれを作らない。


——なるほど。


増田 江戸時代とか巻紙に縦書きして手紙を書きましたよね。縦書き横スクロールはあのイメージなんです。日本語は巻紙を捲るようににして左へスクロールするのが自然なんです。左へスクロールすると次の行、次のページが出てこないとおかしいんです。下へ捲るのは違和感が大きい。それを軽い動作で動かせるのはJeditだけです。だからこそ「プロはJedit一択ですよ」って僕はまわりに言い続けるんです。


——いま書いている小説もJeditで?


増田 はい。一昨年出した『猿と人間』(宝島社)も、20243月に出る『七帝柔道記Ⅱ 立てる我が部ぞ力あり』(角川書店)も、夏に出る講談社の警察小説も、すべてJeditΩで書きました。3冊で合わせて400字詰原稿用紙換算で3000枚です(笑)。


——またえらくたくさん書きましたね(笑)。


増田 僕はとにかく書きすぎるくらい書いてしまうんです。『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』(新潮社)なんて原稿用紙換算1600枚ですからね。いつも作品を書き上げたあと編集者に「これを100枚削ってください」と言われて「はい」と受けて、削ってみたら300枚増えていたとか(笑)。


——むしろ増やしてしまうと?(笑)


増田 そうですね。知らないうちに(笑)。もっと良くしたいという欲求が強いんだと思います。


——Jeditはずっと使っていただけそうですか。


増田 ええ。もうこれ以外に考えられません。ワープロソフトの鈍くさい動きに辟易としましたから。われわれのような作家は正確に速くテキストが打てるのが必須なんです。そして縦書き横スクロール。作家以外の一般の方々にもぜひお薦めしたいですね。少なくともプロは絶対に使うべきです。「こうした機能を追加してほしい」とメールを打つと、数日後には作ってくれますし。そんなソフト会社ないですよ。


——ありがとうございます。


増田 こちらこそ、これからもよろしくお願いいたします。



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★増田俊也(ますだ・としなり) 1965年生まれ。北海道大学中退。2006年『シャトゥーン ヒグマの森』(宝島社)で「このミステリーがすごい!」大賞優秀賞を受賞しデビュー。2012年『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』(新潮社)で大宅賞と新潮ドキュメント賞をW受賞。2013年、北大時代の青春を描いた自伝的小説『七帝柔道記』(角川書店)で山田風太郎賞最終候補。他著に『VTJ前夜の中井祐樹』(イースト・プレス)、『北海タイムス物語』(新潮社)、『猿と人間』(宝島社)など多数。